紫陽花 小川三郎
紫陽花がまるくふくらみ
あなたの頭のうえに乗った。
あなたの命が少しゆれる。
紫陽花が伸びをする。
あなたは友人の母親が死んだ話を始める。
私は相槌を打っている。
柔らかい風が吹いて
紫色がにわかに濃くなる。
私も少し不安になった。
あなたの顔色を覗き込むと
いつもと変らぬ青白さで
誰の母親が死んだって?
そんな話、誰もしてない。
そういうときもあるかもしれない。
口笛吹いて
視線を逸らすと
あなたは先に歩きだし
紫陽花の色は紫のまま
さっきと違う匂いになった。