強欲      沼尻つた子

  • 投稿日:2012年10月26日
  • カテゴリー:短歌

強欲(ごうよく)             沼尻つた子

あかくなる前の紅葉の名をきいた助手席の位置をずらしつつ

芒野にショールたなびき肩先の水玉模様は風疹のよう

すこしだけ雲の要素を溶けこませ滝がおちてくる夕間暮れ

生の花なのかと触れるロビーの瓶ひらくという字が疎開にはある

太刀魚か牡蠣かを選べる一皿の隅に添えられた不検出

新館のすべての部屋の引き出しに聖書は置かれている、まっすぐに

星ならば零れるものだ両の手をふさがれたときの歯の使いみち

わたしたち強い欲望が兆すたび在り処を知らない老後へすすむ

人感のフットライトはしばらくを灯る 足首の過ぎた後にも

おしあげた額の眼鏡をかけなおす朝のあなたに目は戻り来る

見るうちにうすれていった尾根の霧ここの歯磨き粉おいしいね 

ワイシャツに形状以外の記憶なく露草より淡い青の皺

消す術を誰も知らない火をつかう ポットの湯冷ましは水ではない

作者商会

  • 沼尻つた子(ぬまじり つたこ)

二〇〇五年、作歌を開始。「枡野浩一のかんたん短歌blog」「笹短歌ドットコム」等への投稿を経て、二〇〇六年、塔短歌会入会。二〇一一年、歌壇賞次席。二〇一二年、塔短歌会新人賞受賞。 

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