梃子と鉄橋   山階基

  • 投稿日:2018年02月03日
  • カテゴリー:短歌

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梃子と鉄橋   山階基

バス停のようにぼんやり立っている夏のわたしの旅先として
おどろいたあなたの股をくぐりたい橋を見上げて川原をくだる
長くなる答えはすべて宛て先を書いて切手を貼るものだった
しゃぼん玉ずっと割るのがおもしろいよその子供に吹いたしばらく
ちゃん付けで呼ばれるときが鳩尾をいっぱつ殴られたように来る
彼らいまキャンプを終えて行くところジープは砂利を軽く鳴らして
常夜灯のとぼしいひかり降るなかにいないあいだは指をつないだ
はじめての部屋のでかさにピングーのような旅装をほどいてすわる
路地に雨たまりやすくて波のようによぎる車のはやさやおそさ
バスタオルかぶって行けば待っている両手に井村屋のあずきバー
起きてくるあなたの肩に散りかけた地味な花火のような歯形よ
めずらしい雨にあなたの町を出るバスが遅れてすこし話した
ビル風に染めっぱなしのばさばさの髪をひたすら吹かれて笑う
夕暮れの湯舟に沈むせっけんを探るあいだにちらつく川面
歩きながら見ると停まっているような観覧車まで行けばわかるよ
ほころびるけれどわたしに手記があることがときおりしなやかな梃子
さきに逝くならばはるかな指となりあなたの走馬灯を回そう
イヤホンがはずれて音のなくなったビデオ通話にまずはうなずく
桃ひとつ別けてもらった青果店の袋を提げるランタンのように
手の甲にしょうゆと書けば書くときのわずかな痛みごと忘れない

山階基
「穀物」同人。未来短歌会「陸から海へ」に参加。早稲田短歌会出身。
同人誌・ネットプリント等の装幀・デザインを手掛ける。第五十九回短歌研究新人賞次席(「長い合宿」)。

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