Perspective
中家 菜津子
ラムネ菓子ひとつほおばり家を出た草食獣の足をはやして
春夏秋冬どこへいたって同じ夢わたしの隣に空席がある
はるはなのめづらしき文字みつけたり(両片想い)辞書にはまだない
むらさきは乱れ咲き乱れ犀ほどの大きな一朶の紫陽花になる
(もしオスを食べたらカマキリの産む卵、倍にふえるの)囁きたいな
鳥葬も火葬も残酷などでなく 君の骨から雪への想起
鳥籠にレモンを入れた 亡くなると失くなることの近さと遠さ
八百稲のただ中にある学び舎の新しい屋根虹が低くて
液晶の外はどこまでも傍観者 傍観者たちの招いた画面
ゲルハルト・リヒター展
抽象に狂気の沙汰の告発を塗り込め告発されるは傍観者
奪われた言葉で今も歌われるHe leo no ke kai, ë. @Hana Hi Radio
夕立の濡らしたスカート絞るとき草食性の欲情それは
濡れた手で日捲りめくる水彩の滲んだ花が本当に滲む
致死量を超える小瓶のナツメグを春から秋で空っぽにした
沈む日をとらえた蜘蛛の巣のような大観覧車を電車で過ぎる
体温にあの日抱きしめられたから今日も生きていてはんぺんを食む
ヒマラヤのばら色の塩砕くため力を伝えるガラスのミルに
虫の音のコーラスを連れ君のこえ鼓膜をふるわすアスハサキソウ
祈りとはふたひらのひらかさねあい微かな熱をつたえる仕草
*
蓮の花に閉じ込められてゆく蟻があなたにいつか涅槃を運ぶ