斬首刑 木嶋章夫
すぐ逢いにきてくれないか読んでいる本に落丁みつけてしまう
雷を待ちこがれるか避雷針こもる部屋から空をみている
うしなった背びれをゆらす 潮の香の夜霧に町がつつまれるとき
わが胸に響いてやまず電線の五線譜上に満月ゆれて
下の句のぬりつぶされた相聞歌兄の遺したノートのなかに
夭折の兄の年齢おいこして蝉の穴へと向日葵を挿す
こころ病むときだけすわる椅子がある光とどかぬ海底の椅子
返り血をあびて夕焼け校門に首を落とした向日葵のせる
妹と熊蝉をふむ夕まぐれ婦人科でのみ夫婦であった
窓辺にてきらめく針と月面に埋葬された針の意識と
つぎつぎと星は流れて海岸にオレンジひとつ転がっている
逢いたいと伝えられずに酔芙蓉うすくれないに色づいてゆく
蛇となるためにきみから抜けおちてベッドの下にもぐる髪の毛
はじめてのひとの命日 飛行機のなかで花火を見下ろしている
革命か 首を落とされ冬の地になお立ちつくす皇帝ダリア
作者紹介
- 木嶋章夫(きじま・あきお)
1972年 千葉県茂原市生まれ。
2009年 「短歌人」入会。
2011年 髙瀬賞佳作。
文芸同人誌サークル「ストカスト」主催。