春の 上篠かける
抵抗のように膨らむ蕾からこぼれてしまう花だとしたら
花の死を告げる動詞に新しくぼくの名前を加えてあげる
生前の風を遮る窓ですが歌はとおして死後にしてゆく
やがて死ぬさだめの春の昼間にも物干し竿にゆれるパーカー
灰皿の缶は青さにくらむ空の異物になれず欄干のうえ
少しずつ解散してゆく春の雪もバンドもアイドルも季節を駆ける
圏外へ 自家中毒の電線で月を切断して遠くまで
蜂蜜のような光に触れてしまうそしてぼくだと気づいてしまう
体重の変化しやすいぼくたちの夜は明ければまた夜だった
雨の降る街は塗り絵で透明を塗り重ねればあなたが浮かぶ
上篠かける
玲瓏所属。粘菌歌会主催。第二回石井僚一賞。
Twitter:KamisinOkkk