キキとララ 川島信敬

キキとララ 川島信敬

きみとわたしどちらが先に死ぬか他人事のように話しながら坂道のぼる

わたくしが先に死んだらきみはイシュメールみたいにわたしのことを語って

舌をさすチョコレートの甘さ かんたんにからだをゆるす女の映画みている

岸上ですかいいえむしろ桐山ですとこたえる夕べ

岡井隆が吉本隆明(さん)というときのちょっとしたこころの起伏

近寄り、先生と言って接吻したときすでにあなたのことを裏切っていた

あかつきに甦る羞恥は離散の民ディアスポラのように全身に満ちてゆく

ローファーのかかと潰していたころ撮ったプリクラ、立てた中指

トーストの上でとけてゆくバター きみがキキならわたしはララだ

言葉より深く抱擁を たぶんバベルの塔以前から人間はそう

作者紹介

  • 川島信敬(かわしま・のぶたか)

一九八一年生まれ。「未来」「率」所属。第五十一回短歌研究新人賞次席。

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「作品2012年7月27日号」の記事

  

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