境界線 坂原八津
少しずつ端が黄ばんで降り積もる挨拶だけの葉書 年輪
うねる木の根の体温の上を行く生きた温度をもつものとして
整然と行列する木の重なった影に立つ残像の おおかみ
帚星くずれて白い尾を引いて稀にいのちに変わる不吉を
網膜に結ぶ像なし灰色の龍がくわえた玉もまた 石
神という異形異体の物語うろこを持たない皮膚がざわめく
ずっしりとひんやりと形なくある守られなかったものの 沈黙
やわらかい足跡の上に雨は降りやわらかいまま夕ぐれてゆく
足元にしっかりとある断崖はチョークで描かれた一本の 線
源流の木にまっすぐに降る雨を見送っているとつぶやいてみる
作者紹介
- 坂原八津(さかはらやつ)
1958年愛媛県生 現在「熾」』(代表 沖ななも)所属
1980年「個性」(主宰 加藤克巳)入会 短歌を始める。
1987年 第一歌集『太陽系の魚』
1998年 第二歌集『葉』
2008年 第三歌集『はて』