ねりがらし 戸田響子
眠ったら死ぬぞといいながら
太い太い柱のまわりを
まわっている男たち
先頭の男(誰が先頭かは曖昧だが)のポケットから
ねりがらしが落ちた
二番目の男(誰が二番目かは曖昧だが)が
ねりがらしを踏んだ
血液とも臓器とも見える
ねりがらしの
飛沫が
三番目の男(誰が三番目かは曖昧だが)の
ひたいに
眠ったら死ぬぞと
四番目の男(誰が四番目かは曖昧だが)が
いった
男たちはまわりつづけた
いつのまにか春がきていたが
それでも男たちはまわりつづけた
ねりがらしの蓋を
二十四番目の男(誰が二十四番目かは曖昧だが)が
拾った
死ぬぞと
六十八番目の男(誰が六十八番目かは曖昧だが)が
いった
どれくらいの時がたったか
男たちにはわからない
太い太い柱は
朽ちて消えていた
空の上
もっと上
月よりも太陽よりも
男たちを見ている存在が
あった
焼き豚と
いった
焼き豚には
ねりがらし
男たちは
まだまわりつづけていたが
誰一人そこにはいなかった
体はすでに朽ちて消え
男たちだったものが
まわりつづけているだけだった
ねりがらしの容器も朽ちていた
太い太い柱のあった場所には
一本の
太い太い
ラーメンの麺が
空の上
もっと上
月よりも太陽よりも上へ上へと
伸び続けていた
湯切り
湯切り
男たちだったものは
まわる
何度目かの星が輝きはじめて
唐突に男たちだったものは
誰からともなく立ち止まった
駅前の串焼き屋
行くか
チューハイ
生
生
生
ホッピー
チューハイ
冷
ぬる
生
生
ゆずハイボール
生
男たちだったものは立ち去った
その列は途切れることなく
どこまでも
生
生
生
レモンサワー
一本の
太い太い
ラーメンの麺だけが
天上へ
星明りに輝きながら