ツナマヨが売り切れた   戸田響子

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【連載 最終回(全6回)】 詩歌トライアスロン

ツナマヨが売り切れた   戸田響子

罠だった何もかもが
天気予報を見ていない日を狙って
意図的に雨が降り出す
あえて泥をはねてゆく車
雲がわざと早く流れる

目の前で売り切れになったツナマヨのおにぎりをただ見送っている
買ったばかりのビニール傘が早々にとられてしまう豪雨の手前

クリップが作為的に曲げられており
紙が破れてしまう

傷つけられた

コピー機が
書棚のかげから笑っている
蛍光灯の含み笑いが聞こえる
電気錠はわたくしのことを忘れたと嘯き
アラームを鳴らし続けた

ブラインドの隙間から見える雨
照り返す信号の点滅する赤
冷え切っているガードレール
音もなく走り寄ってくる電気自動車

狙いすまして伸びてくる隣家の樹木
チョコレート味だけなくなっているクッキー缶

風に押されて初めて一歩を踏み出したカラーコーンは引き倒された
不動産屋のガラス戸に色あせているチラシが剥がれかけている夜
月は見えないけれどあそこにあるだろう少し明るい雲の表面

粉末のコーンスープは常に溶け残っている
ハンバーガーの具はすべてすべり落ちた
ストローの曲げる方を下にして
突っ込んでしまった炭酸飲料の
泡が後から後から水面にあがって
細かい泡はいつまでも続く

溺れてしまう

誰かがわたくしを陥れようと
割り箸が
先端を残して
折れる

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