失われた欠片に1 森川雅美
誰にも告げられずいつまでも削られる
夜が明けるよりも早く延々と削られつづける
静かに骨になる魂の形であるならばらばらに散らばり
切り傷だって溢れる真っ赤な水脈になる窪みの
サラサレタ神名ハダレノ耳ニモツゲルナ
ふかい地層のさらに奥底が根こそぎ削られる
湧きだす水の源までも残りなく削られつづける
緩やかな記録の散逸の止まらない荒れつづける傾斜に
もはや骨よりも薄くなる頂が風に吹かれていても
サラサレタ神名ハダレノ耳ニモツゲルナ
ゆっくりと傷なんだねといったまま神の名前もはらはら落ちる
意識の底の永く継がれた記憶の風景まで削られる
積み上げられた人たちの声が残らず削られつづける
ふかく内在する地の殻はいたる場所で幾重にもゆるみ
空のひずみはいのちすらも失われていくと
サラサレタ神名ハダレノ耳ニモツゲルナ
神のしかばね横たわる春霞