街の芽 戸田響子
野良犬は公園のベンチの下から生まれた
地下鉄の通風口から孵りつづけるポケットティッシュ
大音量の宣伝カーはビルの隙間から次々と芽生えた
蟻は歩み始める
カチューシャをくわえた全裸の男がバスターミナルを走りぬける
公衆トイレの屋根に積もった汚泥に可憐な白い花が咲く
車のない二車線道路の信号がいっせいに変わり
他に人影はない
塩ラーメンのどんぶりが湯気をもうもうとたて
エスカレーターをのぼってゆく
蟻は歩み続ける
掲示板にはりだされたかんぴょう
公衆電話にかけられたワカメ
誰もいない桜並木に落ちている焼き鳥の串しょうゆのにおい
たんぽぽの玉座にのぼる蟻がいっぴき
観覧車がまわりはじめる
いちめんに氷砂糖が砂漠のように広がって
真っ青な太陽の光で
瑠璃のように