短歌「選外」他 湊 圭伍
短歌 選外
実はわたしはハシビロコウに似ているが今まで指摘されたことはない
辺境の人らと拍手で愛しあう(ここには何も入れないでおくれ)
三角のチーズの丸い一辺を真っ直ぐにする情熱がある
ドラえもんAとBとがいがみ合うそんな世界を見ていたかった
地下鉄をぼくは好きです中指を根もとまでぐっと入れるくらいに
職業柄、森羅万象に詳しくてこっそり彼を笑っている彼女
たわむれに空を撃とうが撃つまいが君はぼくらのマントヒヒだよ
水色の小さき鳥のかたちして鴨脚が放つ千のつぶやき
少しずつ歌を読むのがはやくなりそろそろ速度を落とさないとね
選外だけどすごくよかったよと覚えのない歌の作者にされる
俳句 Shall We Celebrate?
全痴全裸の神よタニシの卵ぴんく
勇敢なおとうとがいる夢を見ました
ラジオ死して質屋の窓にシュトレエン
パワハラの海星の死骸 暑いねえ
ファッションになるよう海鞘を剥いておく
どうせまた蝉の抜け殻なんでしょう
タケノコが血天井から伸びてくる
鉛筆みたいな頭で早朝の駅のホームから
献立をペットショップで組み換える
喉もとに海が来る本番ではないが
自由詩 月とハサミ
ベランダに出て、家族と月を眺めていると、
歳のせいなのか、眼鏡のせいなのか、
あかあかとした満月が二重に見える
私たちが見るのは現実ではない
遠い山並みまでを
豊かに満たしている海があり
こちらに一散に向かってくる背びれがある
そして、私からずれていって
駐車場に向け、落ちてゆく影がある
いや、アスファルトにたどり着くまえに
鮮やかにしぶきがあがり、
こちらに向かってくる背びれに向け、
ちょっと揺らぎながら泳ぎ始める、黒々とした塊
「逆さにすると、大きなハサミを差し上げるカニが見えるんだって」
満月がいちまい剥がれて落ちてくる
私たちのちょうどあいだ、
つづがなく、家族につづいて私が
部屋のなかに戻り、
月見団子の余っていた餡をほおばって
流しへと皿を運んでゆくときに。