篭と宿営地 斎藤 秀雄
喪神のエレボスの手を雪片のか黒きまでに蝕む朝か
エアダクト絶えず結露のしたたりて巫娼の腹を舐める冷光
霜の香のふと離陸せりはろばろと天球上を這う墨流し
日の冴える地平の木々はほの白い錫釉、国家は黒い牛乳
糖蜜が雪にしぶきてしずかなる、否、無音なる刵刑の匂い
巫医の首刎ねて恍惚たるまひる氷の下に蘭黒く咲く
贋祖国なれば幼き皇帝よ去勢の牛を乳柱とせん
手は谷にあったと気づく ももいろの膚を撫ぜて樹海へ向かう
宇宙卵果然と腐りひびわれをはらわたのなき鳥ども集る
目は闇に慣れて円天井のそこ重量のないプリズムが降る