第7回詩歌トライアスロン鼎立作品受賞連載第6回『大丈夫』 草野 理恵子

第8回詩歌トライアスロン鼎立作品受賞連載第6回
『大丈夫』 草野 理恵子

(サンダルをエスカレーターで引っ掛けて大きなお化けの中身あふれる)

エスカレーターに
大きなお化けが一緒に乗った
裾 大丈夫ですか?
引っ掛かったら危ないですよと言うと
答える間もなく引っ掛かり
中身が溢れてくる
たくさんの人のお化けが集まって
大きな一人のお化けになっているらしい
僕 エスカレーターでサンダル引っ掛け
死んだんだったと一人が言い
あたりは笑いに包まれる

藍すぎる目のお化け多いエスカレーター

(手や足が溶けた人に聞く「大丈夫?」そう聞けば言う「大丈夫だよ」)

人が溶けだしたので
おでことか押さえた
手や足の先の方からだったから
大丈夫?って聞いたら大丈夫って言った
こいつは大丈夫って言うやつだなと思った
てか 聞き方が悪いんだ
大丈夫とかどうだったかとか聞けば
普通とか大丈夫ですって言うに決まってるだろうが
大丈夫じゃないよねって聞いた
うん 大丈夫じゃないって答えた
ほら

大丈夫じゃない時にはおでこに手

(川辺にて幼い顔に血が流れ 腕へそに入れ鈴の音が鳴る)

彼女が少し幼い顔になって
川辺を歩く
水に浸けた足先から
赤いものが流れ出し
血じゃないかと心配になる
大丈夫だよと上げた顎からも
赤く流れる

「太陽の黒点」とおへそを指さし
どんどん腕を入れる
きっと裏返しになるんだろうと思い
止めたいのに止められず
半分裏返しの形で笑う君を撫でると
鈴の音

川辺にて 変異 鈴の音 へそに腕

(彼の名はゴマフアザラシ 桃の皮 体に貼って泳ぎ皮浮く)

皆彼のことを
ゴマフアザラシと呼んだ
別に太っているわけでもなく
黒子だらけだった訳でもない

彼は桃の皮を剝き
体に貼り付ける
毎日繰り返し
目を覆い
薄ぼんやりだねと言う
桃の皮 腐るよって言うと
ゴマフアザラシだから大丈夫って

ある朝
灯台のように泳いでいった
浮かんだ桃の皮は腐ってなかった
私はそれを拾い目に当てる
ねえゴマフアザラシ
世界は本当に薄ぼんやりだね

桃の皮 目に貼り付ければ世はぼやけ

(嚙みちぎる蛸の足先青空を指さしてるから手かもしれない)

薄暗い日
半魚人が来て僕は食べられた
右の腹
ここに何入っているのかな?
僕 肝臓の病気なんだけど
半魚人大丈夫かな?
様子をうかがうと
大丈夫そうだから
大丈夫だな

大丈夫という言葉が好きだ
幸せというのより好きかも知れない
だから
何もかもを大丈夫にしたい

半魚人は蛸を吐いたから僕はそれを食べた
僕の肝臓が入り混じっていたかもしれない
蛸の足
半魚人と僕の喉に引っかかった
でも大丈夫
そのあとちゃんと嚙みちぎった
空が急に晴れた

噛みちぎる手首足首空を見る

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