変転 紫衣
吹き荒ぶ 轟音と共に露わになる白い脚、二本の。濾光板を透かして交わされる視線、画角の中。手筆は移動する。水平に、静止した半身へと。凍てついた臀部に蠢く、腰からフォルム断たれた白い髪。剝がれた被膜を項に滑らせ、一体に融けあう生き物たち̶̶ヴァギナ。薙ぎ倒された朽木と見紛うほどに、脆く。塞がれた瞼から零れる筋は、哭いて乾いた痕跡か。薄くひらかれた唇から覗く歯肉は蒼い毛皮の端を食む。絶えて額にかむる葉脈は手向けの花か、祝福の冠か。ともすると(かの女は)。
白木が伸びる。ゆんでは枝か。視線の這う先に浮かびあがるようにして、もう一本の腕。ひそめる呼気。獣かヒトか。岩肌にみちる音。砂底にゆびをばらばら斬り落としてゆく、
残像。語られる息。消えてゆく光……
*
此処はみずの中だろうか。乱反射する対象画。沈黙の乳房。目を瞑るかの女〝たち〞。反転した天地に浮かびあがるその横顔は、朽ちてしずめられたしろい石。
(いつでも、そう。自在に姿をかえる――)
《略歴》
紫衣(しい)
実践女子大学文学部国文学科卒業、東京都在住。
二〇二〇年 第五八回現代詩手帖賞 受賞
二〇二一年 第一詩集『旋律になる前 の』(思潮社)上梓
二〇二二年 同詩集にて、第二七回中原中也賞と第五八回小熊秀雄賞の最終候補にノミネート