いつかささやく
楠本 奇蹄
焼野原くわんのんの手はこゑを灯し
おひさまを鋤き込むおらしよ口中に
春泥で拵へるなら笑ふえわ
絵踏、海 いづれ内股なる母よ
彼岸潮あかるし血肉咲き帰り
落ひばり妖蛇のをらぬ七日目の
悲しみに諳んじて岩あたたかし
東風強し彼の人は捧げる魚
ぱらいそに空のぶつかる胡蝶かな
水は他界 菫と埋めるあにまなれば
ろざりおの拭けどもくすむ春の雨
鶴帰るいつかささやくその名へと
(プロフィール)
楠本奇蹄(くすもと・きてい)
暫定句会、豆の木、子連れ句会など参加。第38回、第40回兜太現代俳句新人賞佳作。第11回、第12回北斗賞準賞。第11回百年俳句賞最優秀賞。句集『おしやべり』(マルコボ.コム、2022)。Twitter:@Kitei_Kusumoto