第9回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
しっぽり太ゴシックな午後
尾内 甲太郎
哨戒機の低く飛ぶ街という日々を愛してなまえのない戦争
いっせいにプリキュアの靴ひからせてチュッパチャプスいつものららぽ
アキ・カウリスマキ映画を観たあとの立春の砂利、踏むたびひかる
うまれたとき虹は直線ただ星が曲がっているだけぶらんこに立つ
SpotifyにはなくてSoundCloudにはある音楽を聴きたい薄暮
レモンティーのレモンへまぶすグラニュー糖ここは夕刊なんてない街
眠りの根はやがて太郎をあきらめて夜の次郎の頬をつらぬく
ダイソーで買った種からエイリアンの勢いで葉! 間引きします
工場のにおいをさせる路線バス 河津桜を通過しました
雨が降ればいい 夜から朝にかけての一号線は音がない
道は濡れて串カツ田中のおしぼりをふくらませている宛てのない朝
鳥たちも知らない雨が北遠の山の名へふる 記憶はくずれ
アフリカから冒険に出たヒトだけじゃない 逃げてきたうつろな裔も
ローソンの肉まんいつも出遅れて後悔めいたはつはるの風
SPEEDがWhite Loveで跨った果実としての秘密、言えない
郵便の配達地図に外人と記された家 ※深入りするな
足裏へロイヒを貼ろう自らを善や弱者と思いはじめて
Xの名を変え石を数えつつ窓うちつける春の夜風よ
唇へワセリンを塗るこのたびはたいへんわかりやすい思想で
割り箸を上手に割って春寒は星の研究すすんじゃうよね
くるぶしへ羽根をからませゆくだろう遠鉄百貨店の三階
はくもくれんの淡さ時間は融けてゆくCivilization Vの船も
十一の文明のターン待ちながら読む建礼門院右京大夫集
ポケットの財布をとってポケットへ戻したら ああ かなしいもんな
珈琲というよりWest Goat Coffee店主のくりだすリリックを飲む
海の街へちぐはぐ陸のものがたり根が腐っては根付かぬものを
しっぽり太ゴシックな午後(汽笛のなかで)影は影からうまれるもので
無蓋車に載せられ豚は北へゆく宮沢賢治の童話は冷えて
そのさきへ行けないふたり珈琲の牛乳入りは自分に甘い
エミネムは百恵となって永遠の風にマイクの朽ち果てるまで