第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
二〇二二年春(前)
山崎 秀貴
〈居住地 北ドイツ・ハンブルク〉
青空にもヴァカンスある街凍雲の裏に隠りて三月を過ごす
春の空にわが心身の浮き立ちきニュースの重さを知らざりしかば
〈距離を調べた〉
ウクライナと此処を繋げり大阪から青森ほどの長さの陸路
深刻さを推し量らんと眺むればドイツのキャスターみな暗き服
夕食後に手が伸びるもの デザート 在ウクライナ邦人ツイート
携帯が臨時ニュースに鳴るたびに恋愛のような高揚がある
恋愛はよく戦争に比喩される、などと思っている間の砲撃
ウクライナ人とは知らず同僚の妻も向かいの家族のパパも
亡命の渋滞に似し経験を探して帰省をのみ思いつく
大渋滞だと電話で取材にこたえいるこの人の夫はいま何をして
ゼレンスキー、プーチン、マクロン逞しき肉体晒せりミーム画像に
この雄々しき指導者たちが愛しあうならばこの戦争のゆくえは
〈連れあいは教員〉
明日には亡命の子を受け入れてブレヒト学校六年c組
朝が来るたびに悲惨になってゆく世界の常をようやく知りぬ
(次回に続く)
山崎 秀貴(やまさき ひでたか)
一九九三年、大阪生まれ。ドイツ・ハンブルク在住。Twitter: @hdtkymsk