第10回詩歌トライアスロン選外佳作⑤

第10回詩歌トライアスロン選外佳作⑤

三詩型鼎立作品

短歌「捻れ」俳句「夏の句点」自由詩「干からびた林檎」 山本 栞

短歌「捻れ」

チェルシーは魔法の風味と知っていた母さんよりもたしかな舌で
できすぎた宇宙が嫌いできすぎない地球は好きだ八十円の炭酸
今日までの嘘と今までこの都市に架かった虹の等しさを言う
DNA捻れるように這う蚯蚓 干からびるとは死ぬことですか
体内を血液とともにめぐる詩がときどき膣から溢れてしまう
方舟を操るための教習所に兎は通う地球を夢見て
寄り添ったあとに私の岸へ着く濁ったきみの波幾重にも
生きていると自覚しないまま息をして砂漠の人の伝記をひらく
惣菜を定価で買った銀河的瑕疵にケアルをかけてください
折鶴蘭の垂れる窓ぎわ寝そべって月には行けないきみも私も

俳句「夏の句点」

蛇口から永遠を注ぎて夏来る
サイダーは性善説の甘い味
雨蛙肺は音楽を覚えをり
飼い犬の青芝を踏む影を踏む
道端へ蛞蝓が書くチルダかな
盗まれた傘の数知る天気雨
ぎやまんに明るき動詞だけ浮かべ
屍へと群がる蝿の如き星
アカシアや眠りそびれるわが砂丘
囚われのビー玉を夏の句点とす

自由詩「干からびた林檎」

 痩せた体躯に抗えない捻れを抱えている

山羊たちはみな

街中の林檎を食い尽くし

水たまりを飲み干してしまう
  
 ずっと待っていたあのひとからの手紙が来た

 きっと山羊はそれも食べてしまうだろうから

 今のうちに獏に頼んでおく

 あのひとの夢も一緒に食べてしまうようにと

  一枚の金貨と引き換えに

  夢見るひとの夢は特別なごちそうなのだと

獏は教えてくれた

  老いた獏の濁った目と皺

  山羊も獏も私もあまりにもさもしい

  ここは貪欲の街だ

   砂漠には砂の影が落ちる

                  私たちは   命あるものは奪い合わない

   影を持たない代わりに遺伝子を持つ

   砂漠には影が落ちる 砂のつぶの数だけ

                        命あるものは奪い合わない

      たとえ干からびた林檎や

砂漠に咲くたった一輪の薔薇であっても

                    と あのひとは言っていたが

葬列はつづく 

 私は奥歯にすっかり星を生やして

 山羊たちは喪服に身を包んでいた

 獏はしきりにアカシアを振りまき

 喪失に耐えている

 貧しいことは罪ではないが

 私たちは飢えすぎている

    肉に   歌に      そして**に

 その証拠のように

すべての駅はここに通じていないのだから

短歌「母の戦後」俳句「花の宴」自由詩「部屋」 杉美春

短歌「母の戦後」

満州に一人渡りし若き日の母は現地で日本語教える
終戦の知らせに帰国決意せし母を引き留む養女にせんと
引揚げの母が連れ来し兵ふたり泥のごとくに夜汽車に眠る
日教組女教師として闘へりメーデーにまだ意味がありし日々
戦後教育矛盾に満ちてそれでもできること一つずつ
バイク飛ばす忙しき日々バイクで風を切るが嬉しと
息子二人やや放任に育てつつ教室の子らに全力注ぐ
職を辞し書と染色に生きる日々来世は生きたし染色一筋
夫が逝き長男が逝き孫が逝き逆縁といふむごき日々生く
忘却は恩寵なるか穏やかに生きつつ母は白寿なり

俳句「花の宴」

桜花祭神輿連合渡御駒番
鎮座する神輿の金烏風光る
横隔膜太鼓に共鳴する春日
ガムランの緩急春の風に乗り
道化師の手から風船虚空へと
ジャグリングのボールを煽る桜東風
犬引いて犬に引かれる桜東風
古切手に残る消印鳥雲に
骨董市に並ぶ焼き印春深し
絞り出すマチスの絵具花の種

自由詩「部屋」

幻影が踊る無彩色
百合の香が突き刺さるので
喘いでいる無重力の底
粘液を繰り出す二匹の蜘蛛
悲鳴に似た細い糸
絡み合った網目をすり抜ける
別々のいらだち
笑ってしまおうか、この無限大に向かって

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