第10回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第6回 Stop & Go ユウアイト

第10回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第6回
Stop & Go
ユウアイト

この星の
ふちから昇る ウタ 照らす 
張のない弓
幻獣の口

どこへも経由しない
ホリゾンタルな船旅がある
七日間ののちに
東海岸から西海岸へ
そして、ぼくたちの枕詞へ
レコードの傷には
「歌うように」と言伝があった
そう聞いている
もちろん
革命の話ではなくて
 
ウタ、特に歌謡について思いつくままに書こうと試みるとき、特にジャズから学んだ者
がまず頭に浮かぶであろう、インプロヴィゼーションを語る際によく用いられる「歌うよ
うに」という言葉。これはもちろん、ギタリストやピアニストといった楽器演奏者に対し
ての言葉であって、「歌手」のそれには通常用いられない―― 。

まだ恥ずかしい文体だった頃
話し言葉と
書き言葉の間を行き来する
ホビットや
竜のレリーフ
時には生活の歩幅で
飛石を行き、整えるも弱起は群れ
驚いては羽ばたきやすいゆえに
誰もが隔たりをもっている

 コンサート・キーでは釈明できない君やあらゆるデストロイのこと

これは、クラシックの音楽用語「cantabile」とは異なる。表情は豊であるが、音数は少
なく抑制の効いたもので、動物の皮や木、金属を通じていながらまるで裸のような、初め
ての発話のような演奏を意味している。

ぼくたちはC・ベイカーの伝記映画から
何度も学びなおす
まずは呼吸法から始めてみよう
何だっていい
愛だっていい
とりあえず解釈の是非は置いておいて
ウタの起源へ

再演のタクトのように葉が落ちて

   変音器かすかな熱を孕む冬

皸の指に気遣う湿度計

ここで、彼らが古くから演奏されてきた楽曲のことを「歌もの= songs」と呼ぶことを
思い出したのだった。songs は歌曲を示す言葉であるが、実際には歌詞のないものにも用
いられる。むしろ、その器楽曲編成でのアプローチを拡大していったことが今日のジャズ
の土台となっている。歌曲の方が割合的には少ないのだ。
それでも、なぜ「歌もの」と呼ぶのか? それはもちろん、人はウタへの信仰を内在的
にもっているからだろう。そうでありながら、遥かに器用な楽器を用いて旋を似せるよう
に、痩せた径を踏んでいくのは何とも不思議である。

楽団の裏に埋もれた声がある晴れた日の永遠をみせる

今では
樹上が騒がしいと感じる
あれもウタだと信じきっていた
獣に石を投げたりして
呼び交わしは警告か
性交か
誰が最初の質問をしたのか
ダーウィンがぼくたちを見ている

人はなぜ、ウタうのか? 
正直に言うと、ウタの言葉を捉えきれない。例えば、ポップスなどを聴いていると、メ
ロディーと和声のリズムに言葉がたぶらかされてしまっている、と感じる。歌詞を書き出
して読んでみるとどうしても良い印象は感じないのに、つい口ずさんでしまう。

爪弾きや桜を散らす風に添い

まどろんだ耳を寝かせる牡丹百合

ウタがたぶらかすのか
ウタをたぶらかしたのか
鳥は歌う
ライオンも歌う
ぼくたちも歌うけれど
本来はライオンよりも弱弱しく地上では
沈黙することが求められていた

 君はすぐ思いのままに空耳し愛と平和を身籠ったと言う

藤井貞和の『〈うた〉起源考』をパラパラとめくる。「集団的にであろうと、個人的にで
あろうと、あらぬ思いにとりつかれ、あるいはうたた騒然たる心的状態に置かれる、そん
な〝うた状態〟での、声や叫びをも含む、えらぎ(酔い)、愉悦のうちに「うた」と呼ば
れる状態はあったのではないか。」という部分に付箋を貼る。スウィングやグルーヴが生
まれる状態というのはこの〝うた状態〟に近いものと思われる。

    夏の夕運搬される太鼓群

背中を任せてもいい
という約束のもとで街はつねに混声
祝詞、飛び交う
山田耕筰と
北原白秋が手を組んでいた時代はむつかしい
ピエロ、世界樹
Fire Bird
感情を描きたいなんて
信じられない

 ある意図の補足としておもむろに
総譜に青い白鳥を描く

 ウタうことは、音楽現象であると同時に社会現象でもある。一つの声部からなる音楽をモ
ノフォニー、複数の声部からなる音楽をポリフォニーと呼ぶ。一つの声部を二人以上で一緒
に歌うことはモノフォニーでもあり、ポリフォニー、特に「社会的ポリフォニー」と呼ぶべ
きである、と唱える者もいる。そこには社会的な協力関係や、共同作業が存在しているから
であるし、集団である方が先の〝うた状態〟に移りやすいと言える。

   鈴虫や夜の際まで連なって

また「歌ふ」は「打ち合ふ」を語源とする説がある。これは手で拍子をとり合って声をだ
す、といことで、他にも「歌」は「訴ふ」の語根とする説や「写す(うつす)」が約転したも
のとする説がある。いかにも抒情詩的である―― 。

分節化する前の
吃音
夢と数
羽ばたきか囀りか
反復する
反復するウタについての

※『〈うた〉起源考』藤井貞和著 青土社(2020)
 『人間はなぜ歌うのか?』ジョージ・ジョルダーニア著 森田稔訳 アルク出版(2017)
 からの引用・参照箇所があります。

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