短歌のともだち 野口あや子
あのひとは天然だからというひとが集まりまくって道に迷えり
しんみりと歌集は汚れ探したいときにかぎって付箋多きを
はなやまさんに花という花かかせつつちょっと痛い目にあわせたし
笹さんのことを言うとき電波情況つねに悪くてかなしからざる
からんからんカランに水をながしつつ貰った紅茶をひとに淹れたり
あやちゃんはみながだいすき関東を言えないけれどみなに会いたし
批評の種類は大きく分けて三通りあります。ひとつめに中沢直人です。
びーるに涎つけつつ聞けり えんじゅさん、とひらがなでよばれてるのを
野口さんはそれなりにかわいいですよと、魚喃キリコを貸さずにきみは
永井さんのよさをかばいてパウンドケーキが美味しく焼けたと話題は変わる
不摂生を責めるほかなき合宿のうつくしき花火の捨て方を
なおこちゃん、と短歌の気配を消して言う 午前10時のうらがわにいる
オオイヌノフグリにふれる指をもて平井弘に電話のタブを
中指でとめる付箋のオレンジの、ひと以外の名でたまに呼びあう
新人と呼ばれることのなくなって気が向けば剃るうぶげのあわさ
作者紹介
- 野口あや子(のぐち・あやこ)
1987年生まれ。『幻桃』『未来』所属。第54回現代歌人協会賞受賞。愛知淑徳大学文化創造学部諏訪哲史小説ゼミ卒。卒業制作に私小説「錆」執筆。最近は宗教と経済を知る必要性をぼんやり感じます。ひとりごはん勉強中。黒瀬珂瀾からいただいた紅茶消費中。