木馬 野木京子
二階へ行きなさい
と言われ
首を曲げて見上げたら 天井ははるかに高く
そこにあいた穴を目指して 長く梯子をのぼった
穴の向こうでは少女がふたり
小さな白い顔をのぞかせて待ってくれているのに
梯子をのぼりきったわたしは
片腕片足を伸ばすこともできず
天上の階へ降り立つこともできなかった
下を見ると横たわっているひとが見えた
死の床は 昔のように祈りの匂いがつまっているものではなかった
歴史がひとびとの床を激しく押し流していた
とはいえ事象の移り変わりも出来事も
記憶の鏡のように歪められてゆく
生と死の製造所のあぶくが流れ
見えない木馬がまわっていた
死の床にいるひとのまわりを
恒星の軌道の輪から外れてゆくような動作で
見えない木馬がぎしぎしとまわっていた
ひとの不幸をはやしたてるために
風が吹きこんでくる ちいさなピンポイントの
下の階へはときおり花びらが落ちてくる