うたうために生まれて    法橋太郎

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うたうために生まれて    法橋太郎

ウェンディ、おれの部屋には本が散乱してい
る。片付けようのない問題がおれたちにつき
まとう。生きている目的が見失われる。夜が
やって来て一日のできるかぎりすべての仕事
が終わってやっと解放された気分になる。こ
れからはおれひとりの時間なのだと思う。そ
れでも本を読んでもテレビを見てもやりきれ
なくなるのは何故なんだろう。誰もが寝しず
まったころ無性にさびしくなるのはおれだけ
なのか。ウェンディ、今日は妖精となってお
れと話していてくれないか。ほんの少しだけ
この凍えるような孤独を紛らわせたいんだ。

いくつになっても夢を捨てることはできない。
ウェンディ、たとえかなわぬ夢であってもな
いよりはましだろう。下手だっていいじゃな
いか。この世に生まれておれは精一杯やって
来たんだしこれからもやってゆくつもりだ。
ただ運悪くひととくらべて飛びっきりの何か
に出会わなかっただけなんだ。言い訳してい
るようにひとに言われるのは嫌だからいつも
黙っている。もう一回一から真面目にやり直
そう。人生に遅いということはないと誰かが
言ってたっけ。それでもこんなさびしい夜は
ウェンディ、おまえと話していたい。

恋人ができればおれはおまえについて何か書
くことができるような気がする。おれはしが
ない詩人にすぎないがウェンディ、少しだけ
おまえと一緒に夢が見たいんだ。貧しいだけ
で何もできない三流詩人のおれに仕事が来て
も金が入ることはない。ウェンディ、おまえ
にしてやれるのはおまえを愛することだけだ。
おれには運も才能もない。今日も一日無駄に
過ごした気がしてならない。いつもおればか
りの一方通行だ。ここに来るのは請求書だけ
だ。明日からは食うものにも苦労しそうだ。
こんな矛盾と罠だらけのこの世で信じられる
ものがあるだろうか、ウェンディ、いま少し
だけおまえと一緒に夢が見たいんだ。この散
らかった小さな部屋のなかでおれは頭を抱え
て寝るしかないんだ。

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