感情は速度とともにやって来る 川津望
わたしはうつぶせだったはずだ
電車が緊急停車して
春なのに一気に冷えこむ通勤ラッシュ
さっきまでとなりにいたきみに
みおろされて目が合った
夜 酒を呑みながら
賢治の「永訣の朝」
いもうとの身体について
議論したばかりで
わたしはみどりのコートを着ていた
だから車輪に裾を巻きこまれて
轢断された部分も多い
事故を枕詞としてホームから
鋭利な風景に切りつけられる
一瞬の動揺のあと不へいをもらし
やがて何もなかったことにするひとは
しにざまをただ作りたくて
背なかを押した掌は
いきをすう
はくことですでにほふっている
このしゅかんてきなおきかえからはなたれたわたしの
よごれたもののしたたるところをいくらしぼろうとしても
てはおののくんだ
こえがあたまにひびいて きみは
こうきしんからのぞこうとするこどもとおやに
ありったけくびをふる
身ぶりになるまえの身ぶり
ことばになるまえのことば
どのような姿を借りてこようか
車窓はみごろしにしたもので輝いているから
watashinonakanihataihenzangyakudekowaihitogaimasuotokonohitonoyounakonohitohachiis
aikorokarawatashinonakanisundeimasukizutsukutodetekimasukyouhasonohitogadetekurusun
zendejibundetaisyositanodesugakazokukaraiwaretananigenaihitokotodekanaridetekoyouto
shiteiteimadetayokusottaredoitsumokoitsumosizukanishiteirebaiikininattekusomisoniii
yagattekimigatsukamaranaiyouniotonashikushiteirundakarana
一面のため息で
曇る市街地には咳もまじり
感情は速度とともにやって来る