al dente 箱森裕美
角が多くて角があるたびに曲がり曲がるたびに
自分はひとでなしになります。頭頂から水が噴
き出して眉毛が薄くなり歯と歯がミルクみたい
に流れ落ちて指が一本ずつくっついてゆく。
道をともにしているひとはそんなことないのに
自分だけどんどんとそうなっていくので恥ずか
しい。はずかしい、と、出した声はすでに電子
音となっておりはは。笑い声もなんの感情もあ
らわさない。のだけれども身の内の恥ずかしい
気持ちは継続している。
角が多くてたくさん曲がるから曲がるたびに自
分はひとからどんどん遠ざかります。陰毛がと
ろけ臍が埋まって首がゆっくり回転しはじめ脚
がひょろひょろしすぎて歩くのに難儀する。
道をともにしているひとが自分のストローのよ
うな手を取り引いてくれる。触れているところ
をかすかに吸い上げてしまう。鼻が顔の中にう
ずまって立ち込めていた銭湯の湯気のにおいが
消えた。が湯気のにおいはまだ眼球のあったあ
たりにメモリとして残っている。
あたらしいじゅんばんでいい?
あたらしいじゅんばんでいい?
あたらしい
あ
耳はもうつるりとして聴こえないはずなのに
雑音が からだのなかをなみうって、
角が多くて自分はますます変わっていき伸びて
いきふやけます。あたたかくて、中に髪の毛一
本ぶんの芯のある半透明のひもになっている。
ぬらぬらしているから細くなっても絡まない。
道をともにしている人は自分の手を引くことも
できなくなり抱える。そうまでして曲がらなく
てもいいのだけど、と思う。ひとりで曲がって
くれたらいいのに。なあ。抱え方が雑でどんど
んこぼれる。こぼれたのがもっと前にこぼれた
のと地面で重なる。のに消えずに積もっている。
ねえけっきょくおなじところを
ぐるぐるしてるだけじゃない?
言いたいけれども もうないからさあ 舌が、
箱森 裕美(はこもり・ひろみ)
1980年栃木市生まれ。俳句結社「炎環」「紫」同人
詩歌俳同人Qai<クヮイ>所属