ヌーン   三木悠莉

ヌーン

ヌーン   三木悠莉

冬が懸命に
不躾に
つつく袖口を
手を洗うたびに濡らしてしまい
誰にも聴こえない大きさで舌打ちをして
その度にきみは何度も散って
床のタイルにヒビがはいり
仕方なくその屑を
ダイソーの卓上箒とちりとりで集めて
花壇の隅に捨てているので
その90度だけ抜き出されたように光り
中央線のホームからも見えました、
今朝

はりついたまま
何を思ったのか
知る由もなく
罪をあたえず
ただの2センチを持ち続けることもできない私のコップに
間違って牛乳が多く注がれる
朝が語り継がれる意味はなく
意味がないから語ることもなく
昼に取り替えた夜用ナプキンの外袋を透かして見る東京は
実際のそれよりずっと良かった

立ち竦むはあって
座り竦むはない
他人事のように
ブラインドの桜色の縁を
あみだくじの要領で順番に眺めてる
イエスノーも
問われたことはないのに
答えているきちんと
乗せられたまま台は天井への距離を甘くする

公園には幸いにも誰もいなくて
しかし
燃やすものもなくて
アイスの棒
燃やした
ぺぺローション
燃やした
燃やせないものまで燃やした
へんな色の焚き火を囲んで
居合わせた草や花は踊りをやめなかった
本心はやめたかったと思う
彼らは訳知り顔で付き合うから
勘違いしてしまいそうになりながら
汗をかいてなお
脚を土に絡めとられたまま
儀式が終わるまでついにやり遂げた

正しく拍手ができるのかわからない

とてもお辞儀はふさわしくない気がして
それではお礼に、と
立ち上がったとき
彼らはそれを固く拒み

激昂した私は
踏みました
踏み潰しました
汗ごと
彼らはもう土と一体になってしまい
残された侮蔑のいい香りだけ
白々しくも立ち上り
すぐさま夕立を呼びました
息を吸い込む間もないほどに一瞬で

よび声は聞こえないはずなのに
その時だけは確かめたような気がして
目を見開くでもなく笑うでもなく

どこの国のものでもない言葉で
すばらしい
と言いました
嘘です
私は私の話せる日本語で
知りうる限りの
正しいイントネーションで
ありがとうを
しました

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