アスタリスク    中家 菜津子

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アスタリスク    中家 菜津子

初めて開いたはずの、
その本の最初のページと
最後のページに
見覚えがあった
本の中の部屋に
置かれたガラスで
確かに水を飲んで暮らした
はずの形跡を留めたこの手紙を
折り紙の鳥にして飛ばそうとして
長い辺を正方形にするために
破った紙片こそ
風変わりな風になって
はじめましておかえりなさい

一枚の湖にそれはいる、
廃棄された思い出
のような灰色の塊に
長い首が花枝
のように生えたとき
水底に根を生やした意志を
錨として留まっている
眠り 
死をまねる水鳥の遊び
液晶化した闇い水面から
幼鳥の首すじは上昇をつづけ
magnolia
先端に開いた花は
月を啄み水底に沈めた
カレンダーを無効にする
ピリオドは次の種

みずどりからほどけたみどりの、
細胞のとりどりの灯りを縫い
断片化と集合を繰り返して
結ばれる像
雨に録音された誰かの声は
意味を漂白した線として
水面に新しい文字を描く
結ばないで
その手で束ねていて
長い髪を
そうしているうちに
鬱蒼として樹木になる

思い出さずに思いなさい、
画集を楽器代わりに
薄い紙に鉛筆を滑らす
目ではなく耳で弾く線は
意味を持たずに喋レルようになる
そうしてリズムだけの
ワタシタチは会話をする
時々線は理路を歩いた
なずきからなづきまで
手が触れあった時は

部屋を浮かべて手紙を書く行為、
窓から見えるものを
誰かへと書きながら誰かを読む
出鱈目の雪の窓辺で
夜のかみは何色?
質量を計る目に
貼られたフィルムに
気づけないまま
今日を忘れている
それを捲る/時はいつも
鳥と魚は同じになる
巻き貝を巻くエネルギーが
時計を左右へ同時にすすめて

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