底に放せば   嶋稟太郎

  • 投稿日:2018年03月03日
  • カテゴリー:短歌

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底に放せば   嶋稟太郎

空洞がわれにもありや鉄塔は空の青さに貫かれ立つ
向かい合うわが手の中を偶然に真水のみずは通り過ぎたり
遠き日のジュラ紀に絶えししゅのありて里芋六個わが前にある
たちまちに水濁りつつ銀色の器に水が増してゆくなり
ふと覚めて傾く部屋のしばし見ゆ草刈る音の遠ざかりゆく
ふるさとを遠く離れて東京の吾がいえの湯に柚子ひとつあり
柚子の実を底に放せばゆずのみのやがてあらわる膝の間に
月面に着陸したる人思う何も持たずに浴室を出て
縦に長き硝子の窓はぼんやりと明るくなりぬ靴紐を結う
両の手を広げるほどの窓あれば地上の雪は吹き上げにけり

  (「まろにゑ」三十一〜三十四号より抄出)

嶋稟太郎
1988年宮城県石巻市に生まれる。
東京在住。情報技術のプランナー。
未来短歌会/「まろにゑ」同人/千歳烏山歌会

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