雨意 有村桔梗
無造作に触れてしまつた蛇口からあふれてやまぬ六月の闇
急速に発達中の雨雲があなたのはうに向かつてゐます
雨粒がわたしを濡らしてゆくときに記録装置となるワンピース
さびしさが蔓延つてゐる 酸性のわたくしに咲くあぢさゐのいろ
ひらかれた傘のしたにはひとがゐることをたしかな祈りと思ふよ
どうしても忘れてしまふ名の花がきみの不在を鮮やかにする
その日からわたしのなかにいつぴきの手ざはりのよい獣がゐます
沙羅のはな色褪せるまで待つことがきつとただしい間違へかただ
アムネジア すべて忘れてしまつたらあかいあねもね咲かせておかう
あらためてはじめましてと言ふやうに今年の庭に咲く百日紅