あ 髙橋みずほ
あ と思う先に釣り針の光につられて日の真下
あ と口をあけたままなる豆いわし竹とおすほどのひろがり
あ とあけたときにゆきぬめばるの一生あけて終わりぬ
*
めがね橋空ゆく列車の窓に子の口口あけてとおりすぐ
息をのむように あ とあけつつ田んぼの向こうの空の橋
めがね橋緑深きをつなげゆく電車の音の木の間をすぎき
*
釣られることのかなしみを口あけたままの目はふたつ
かなしき声のかたちするめばる小めばる横の向き
海中のきらめきにふれつられた魚のひかりは青く
*
波音をききつつあっけらかんと干からびてゆく潮風のなか
作者紹介
- 髙橋みずほ(たかはし みずほ)
1957年、仙台市生まれ。加藤克巳に師事。「個性」[BLEND]を経て、無所属。
歌集『フルヘッヘンド』(砂子屋書房、二〇〇六)、『しろうるり』(邑書林、二〇〇八)、『春の輪』(沖積舎、二〇一二)など。
個人サイト 蓑虫の揺れ