

第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門奨励賞
真夏の名前
川上 真央
万緑と呼べばさざめくひかりかな
その高架下は
虹のふもとのようだった
ひとにぎりの罪悪感と
こぼれるほどの喜びを
反射しあう街並みにきらきら散らして
車に乗り込む
両手の中におさまる小さな箱の
ふるえを
なぐさめるように、たしなめるように抱いた
ひとりぼっちの八月の外気は
あまりにもさむいから
生まれたての小鳥には、なおさら
ゆびさきに命を乗せて背を向ける青嵐すこし強すぎるから
環七をゆるゆる進む追うことも追われることもない土曜日に
ぽんちゃん、と連呼している昼下がりやさしい雲を生み出すように
蒼穹へ尾を向け眠る白いんこ
名前を呼べば
きみは小さなからだを
さやさや動かして
私のくちびるを見つける
抜けそうな羽を見つめれば
きみははっとしたように
私のひとみを見つける
そして、そこにいる自分を
名前とはなんと優しい感嘆詞 ぽんちゃんにぽんちゃんと呼ばれて
反響の言葉はなべてやわらかく氷のようなわたしと思う
目の前のいのちと触れ合って
わたしがわたしになってゆく
空色のはら見せながらねむる仔を乗せて右手に溜まる青空
やわらかな夏の陽射しが
きみをすべってゆけば
ひかりごとわたしであり
ひかりごときみであるよろこびが
真夏の身体を駆け抜けた