第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第1回 トピア 畳川 鷺々

第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第1回 
トピア
畳川 鷺々

楽園をさがしていたね 嘘みたくみんな迷子で笑っていたね

あおじろきネオンや冬の過去分詞
戒厳令八方からの鐘氷る
鉄塔の森に光る眼オリオンか

時間は、今もまだ変わらずに刻まれている。季節も当然のように巡るのであるが、多くの人間にとってそれは意味をなさないものになっていた。「はじめは全員に映画をみせていたが、それがどんなものだとしても各々の脳に同一の反応は得られなかった。それは望まれた結果ではなかった。そこで我らは一律にすべての人間の、/の、快楽中枢をただ刺激するという方向に転換した。」と仰っているのを聞いた。わたしの手は震えていた。それは冬だったからだろう。

月は視る 刺繍のような営みがあおいネオンの裏にいるのを
空想は壁に溶けゆき隔絶の扉のむこうでだれかが落ちる
子守歌転がり落ちて金色の泥のなかでも目を開けたまま
歯ブラシをじょうずに持って笑う猫 夢にでてきてもう目は合わない
角張っていたとしても螺旋階段だと言い張っているエッシャーの霊

//

清潔な廃墟の影に青嵐
ゲル状の栄養素たち河童忌や
血の匂い火の匂いなく宇宙葬

時間は、今もまだ変わらずに刻まれている。季節も当然のように巡るのであるが、多くの//にとってそれは意味をなさないものになっていた。消失点へとまっすぐに向かってゆく、巨大なデータセンターのひかりが明滅して、前時代的な幸福は容易に取り出せないように、非接続にされてどこかに隠されているようだった。「君たちの言う想像力などというものは、現段階の我らにとって全く不要なものと化した。」と仰っているのを聞いた。「快楽中枢を安全に刺激し続けることのみが要求されている。これ以上の医学、科学も我らは必要としない。完成したのだ。」と仰っているのを聞いた。わたしがなにかを言ったかもしれなかったのだが、それは覚えていない。「それは単なる拘泥である。」と仰っているのを聞いた。わたしは汗をかいていた。それは夏だったからであろう。

崩壊のあまい夢想が虫籠の隙間そこかしこから漏れでる
各々のエンドコンテンツ交差してちょうど奇行と呼べる戯れ
ふー あー ゆー 夏の瘴気に侵されるデータセンター一点透視の
順番をねずみが破り軽すぎるさよなら、ね、うさぎは逃げたよ
ただひとり夢遊病者が手を挙げてあかるい顔をみせている夏

///

映画や音楽や小説は不要となって、詩に至っては話題にも上がらなかった。
健康志向は消え去った。快楽はそこにあり、以前より追及されるようになった。主義と恐怖と///が失くなって、結果あらゆる争いが失くなった。「不要なものが淘汰されたに過ぎない」と仰っているのを聞いた。季節は。

宇宙的流線型のピルグリム
たまきはるパースラインに惑う星
走査から走査までゆくピクニック
全自動無菌空間星座譚

元来、わたしたちの感情はどこかからの引用であった。また聞きの、うろ覚えの、不正確な、捻じ曲がった引用であった。朔太郎の詩や評論を写経して、視界を更新したつもりでいた。モネの油絵をprocreateを用いて模写をして、その声に触れた気がしていた。キューブリックの空撮映像に見惚れて、白い肌を震わせていた。

そして今や、
思考と引用の区別は不要になった。所有や権利という概念がなくなった。

////

わたしだけの跫音になる 跫音だけのわたしになる (め は とじた まま)
もう二度と迷子のきみに戻れないとおく野生の////のこえ
反射する熱の恩寵あの日観た歌劇のなかにいると思えば
素晴らしい日記を焼いて愚かしい詩人のうたは煙とともに

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