第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門奨励賞 獣になるべきとき 椎本 阿吽

第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門奨励賞
獣になるべきとき
椎本 阿吽

昼。最適な時間です、つまりは獣になるべきとき。カーテンを開ききっても黒の探せない外。

ワイシャツの替えのボタンの入ってる小さな袋の庇護欲幽か

なるにはまず、靴下を脱がないと。獣になるのは指先からと、古い樹形図を辿れば教えられる。
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ははは、って笑ったあとの真顔へともどる間に開いた牡丹

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金色の瞳の時価は数億と告げる役目の内定通知

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角行のひっくり返してぐちゃぐちゃの字が怖かった成りたくないね

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三つ編みをできないほどには髪を伸ばす 雪は黙秘権を行使する

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ちびバルーンぱつんぱつんに膨らませレプリカ、これはそう夢とかの

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リプトンをストローなしで飲んでいてこぼしたことがあるよ、梅雨晴

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パンの薄さを間違えて鳥曇

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氷消え羽虫潤す口の先

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竜天に登ればころり蜻蛉玉

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ぜんまいの渦を開いてすぐ戻る

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初めての性欲は水温むごと

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仲春や爪の深さの穴に種

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