日めくり詩歌 自由詩 山田亮太(2011/9/22)

「ぬ」 斉藤恵子

春のぬのキワには生くびを持ってゆくという
生くびがないので牛を曳いていくことにした
 
牛を曳くときには子ども服を着なければならない
水色の半ズボンを穿いて
牛の頭を抱くような恰好で歩く
 
橋をわたっていく
すれちがうときには立ち止まる
向こうの息をかんじ
ゆずらねばならないことを知ると引き返す
 
ぬには生温かな亡きがらの匂いがたちこめていた
土はやわらかく迎え
木木には視線がからまり
草の息が足元にまとわりついている

(前半部分、思潮社『海と夜祭』所収、2011年7月)


この詩のタイトルでもある「ぬ」が何を意味するか知っていますか?
私は知りません。
本文中に「ぬ」が登場するのは2回。
第一連一行目と第四連一行目に現れます。
推測するに、どうやら季節が関係するらしい。
生きているものであるらしい。
動物かもしれない。
「生くびをもってゆく」「亡きがらの 匂いがたちこめ」とあるから、肉食の動物ではないか。

「ぬ」がつく言葉を思い浮かべてみます。
ぬすっと。ぬりえ。ぬし。
盗人や塗り絵はたぶん関係がない。
もしかしたら「ぬ」は森の主ではないか。

「ぬ」がつく言葉はそんなに多くはありません。
それでもまだまだある。
ぬま。ぬえ。ぬらりひょん。
「ぬ」は沼に棲んでいるのだろうか。
「ぬ」は鵺と呼ばれる動物なのかもしれない。
それとも妖怪ぬらりひょんなのか。

こんな風に「ぬ」の正体を想像することはこの詩の楽しみ方のひとつでしょう。

けれども結局のところ「ぬ」がなんなのかは謎のままです。
その謎のために、私はこの詩を怖いと感じます。

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