祝賀会中止を語る助教授の語尾、語尾、語尾に響く「シーベルト」
大野道夫「匿名でなき生」「短歌」五月号
いわゆる自粛の蔓延を詠っている。助教授なる人が、なんらかのお祝い事があり、祝賀会が予定されていた。しかし、東日本震災後の自粛ブームで、その祝賀会も中止することになってしまった。「シーベルト」という人間を含む生体が被曝した放射線の線量の単位が、言葉の端々に、呪文のように登場する。「シーベルト」とは自粛ムードを蔓延させる黒魔術の呪文なのだろうか。一首の底に、作者の皮肉な視線が感じられる。
「国民一人びとり」ねぎらうこの人しか言えぬ言葉よ「見守り続け」
この一首は3月16日に発表された天皇陛下の日本国民に向けたビデオメッセージを詠っている。「国民一人びとりが、被災した各地域の上にこれからも長く心を寄せ、被災者とともにそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています。」という末尾の部分を「この人しか言えぬことば」ととらえているわけだ。
天皇皇后両陛下の精力的で慈愛にみちた被災地訪問の映像を見るにつけ、この「この人しか言えぬ言葉よ」との思いがよみがえる。
作者紹介
大野道夫・昭和31年生れ・「心の花」所属