日めくり詩歌 俳句 高山れおな(2011/10/4)

三十四番 アインシュタイン舌出し写真

左勝

舌出しおどけるアインシュタイン虹の蛇 岡井省二

大試験アインシュタイン舌を出し 江崎成則


つい先日、「光より速い素粒子観測/ニュートリノ/相対性理論と矛盾」(これは讀賣新聞の見出し)ということで、国際研究グループにより、現代物理学を根底から覆す可能性のある観測結果が得られた旨の報道があったのはごぞんじの通り。アインシュタインによる相対性理論の発表から約百年にしての大事件ということらしい。なんにせよ門外漢にはチンプンカンプンであるが、これを記念して「アインシュタイン舌出し写真」をお題にしてみた。

「アインシュタイン舌出し写真」は、一九五一年三月十四日、碩学七十二歳の誕生日に、INS通信社のアーサー・サス記者によって撮影されたものである。これをテーマにした句としては岡井省二第十一句集『大日』(二〇〇〇年 本阿弥書店)にある左句がすぐに思い浮かんだ。これ以外にも、誰かの句集や雑誌で何度か見かけた気がするのだが、いかんせん所在を突き止めるのは難しそうである。そこでインターネットの力を借りたところ、「栴檀」誌のHPで右句を得た。これだけではない。

夏の雲アインシュタイン舌出して あさぎ(「椋」所属)
梅雨ひん剥けばアインシュタイン舌を出す 作者?
アインシュタイン舌出してゐる誕生日 作者?
八月のアインシュタイン舌を出す 作者?
舌を出すアインシュタイン寒鴉 作者?

やや変則的なところでは、

天才のべろ出す写真春憂ひ 作者?

といった句を拾うことができた。「栴檀」と「椋」のHP以外は、筆者がどなたなのかよくわからないブログ類からの引用のため、作者は不明としておく。

さて、以上を比較するとともかくウェブ上で得た句の中では江崎の右句がいちばんすぐれていよう。必死の思いで試験を受ける学生たちの向こうに、次元を異にした知の巨人のユーモラスなイメージをオーバーラップさせるのは悪くない趣向だ。学生たちへの心やさしい挨拶のようでもあるし、アインシュタインが大学入試で失敗している事実を考えあわせると試験制度を皮肉っているようでもある。しかし、アインシュタイン→学者・学問→試験という落としこみ方は、発想が今ひとつ伸びやかさに欠ける。

対する左句の岡井省二には、いわばアインシュタインの学問そのものに直截に思いを遣る気宇の大きさがある。古代中国では虹は蛇と観念されていた(だから漢字に虫偏が付く)ので、「虹の蛇」という言い回しには充分な歴史的根拠があるし、第一イメージとして美しい。そして、その美しさはアインシュタインが明らかにした真理の美しさの喩ということになり、虹/光、蛇/知というような連想系を潜めてもいて巧みだ。その真理が同時に、「舌出しおどける」ような童心と深く結びついているのも好ましい光景だろう。八(四+四)七五の韻律も、朗らかで、高張したリズムを刻んでいて良い。

そんな次第で左勝については何の問題もないが、しかし、この結果自体は岡井にとってあまり名誉にはなりそうもない。岡井は、特異なテーマを立派に詠みこなしてみせたのだが、特異と思ったものがじつは早々に陳腐化していた事実が判明してしまったからだ。珍奇な趣向を立てる際の、落とし穴ということになろう。

季語 左=虹・蛇(夏)/大試験(春)

作者紹介

  • 岡井省二(おかい・しょうじ)

一九二五年生まれ、二〇〇一年没。加藤楸邨、森澄雄に師事。一九九一年、「槐」を創刊主宰。句集多数。

  • 江崎成則

大正生まれ。「栴檀」同人。

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