七十四番 自然を詠む、人間を詠む(七)
左勝
群青を流して寒の川となる 雨宮きぬよ
右
人日の高き敷居を跨ぎけり 雨宮きぬよ
アンケートでは、計画停電の折りの「真闇と無音」のことが語られています。
闇の地上の空には、月と星が燦然と輝き「月光」は厭くこともなく降り注ぎ、その美しさに陶然たる心持であった。
それから、
幼き日に日本の敗戦を経験した者としては、極限状況における人間の強靭さを知っているつもりである。
という一節も心に残ります。「直接災害を被らなかった」という自覚のある雨宮氏の掲出句は、御覧の通り震災とは関係がありません。
右句は、人日にどこかの寺にでも参拝した様子なのでしょうか。「高き敷居」は、もちろん自宅などではなく、どこか特別な建物での場面と思われるのですが、少々要領を得ません。左句は、どちらかといえば暗い冬の川面に、空の青が鮮やかに映りこんだ場面を捉えて鮮烈です。左勝。
季語 左=寒(冬)/右=人日(新年)
作者紹介
- 雨宮きぬよ(あめみや・きぬよ)
一九三八年生まれ。「百磴」主宰。