日めくり詩歌 短歌 吉岡太朗 (2011/04/02)

ふるさとの雪で漁船が沈むのをわたしに告げて電話が終わる

吉田恭大「Not in service」『早稲田短歌』40号


読みは波かもしれない。
 


それはさも取るに足らないできごとのようにして語られる。
ひたすら他人事で深刻さとは無縁で、けれど一抹の何かを残して消える。
その何かが姿を見せぬまま揺れ動いていて、そのせいでまなざしは歌からはなれずにいる。
「わたし」も電話の主も、おそらくは漁船とは無縁の人物だ。沈んだ漁船は二人には背
景でしかない。
けれどその二人の会話とは無関係に、漁船が沈んだという事実がある。
その事実は二人によって語られているのだけれど、その事実と語られている内容が果た
して同じものであると言えるだろうか。。
「ふるさとの雪」という言い回しにはある種の情緒があり、その情緒を帯びたまま読む
「沈む漁船」は、実際に波に飲まれていく船の一体何を表現しているというのだろう。
 

船は二人の会話の中の世界ではなく、外側の現実の世界で沈んだのだ。それはこのテク
ストには書かれていないことである。
そして、電話が終わり、二人の会話が構築する世界も終わる。その外側にはどのような
沈黙が待っているのだろう。終わってしまった世界の後で、この作中主体は何を思うのか。
それもまたテクストの内側には書かれていない。
行間というよりは行の外側。
テクストが閉塞されているがゆえに、その外側が見え隠れする。
それが揺れ動き、読みを揺さぶる。

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