自由詩「名の灰」・短歌・俳句   斎藤秀雄

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◼️第6回 詩歌トライアスロン次点作品

自由詩「名の灰」・短歌・俳句   斎藤秀雄

・自由詩「名の灰」

手をさし込む、
腕を、灰に、肘まで、
かつて恒星だった
灰、ふれる前に壊れる
灰、記憶
が閉じこめられ
ていて
そばをかすめる
ならば消えてしまう
灰、だった
灰、の姿をもうとどめてはいない
灰、を解く鍵ははじめから
灰、であっただろうから
読め
ない、
灰、の手紙の宛名の空欄にぼくの名を書こう、すでに
灰、でしかないぼくの名は
灰、だったきみとであうことはない
すでに、灰、でしか
ないぼく、の名は、
灰、だったきみと、
であうことはない

死んだもの
でも、生まれくるもの
でも、生きているもの
でもなく、生まれること
ができなかった
ものどもの
灰、石炭、きみが棲みつく
灰、棒状の(その両端は弁になっている)、液状の
日付、かつてきみだった
灰、墓泥棒のように回転する
灰、であっておくれ、出自を
灰、にして、あらかじめ
白紙状の氷点下の骨灰
となるのであろうから
崩れながら燃え尽きる石の
灰、のくずおれる振動
のさまよい
であっておくれ
生まれることが、でき
なかった、きみは、
くずおれる振動の、
さまよい、であっておくれ

ゆりかごを見いだす、
消し炭の、波状の、
燃え尽きた鳥小屋のようにつめたい、
日時計への引き込み線のように黒ずむ、
欠損するための星座の
灰、かつてぼくだった
灰、もはや火はない氷点下の
どこでもない場所
をどこまでも掘る
灰、を、ふれることのできない
灰、を灰になった爪が剥がれてもまだ
掘る、灰を、降りてゆくために
貫くために
壜状の、からだのない、ぼくだった
灰、がきみだった
灰、を掘る、
そして読む、
鍵なしに
見えない、ふれ得ない、
読み得ない、きみを、
火も、燃えるものも、もうない、
ここで、ぼくだった灰が

・短歌作品

崩れつつ生まれるように身の影のほとりを鳩は骨となりゆく

犀ほどのからだ揺さぶる野のひとのあのかたちには行き先がある

跳ね橋が切り裂いたのはむらさきにけむる頭上の交易路でした

・俳句作品

水鳥のをらず水ある水のなか

配られて花にいつぽんづつの指

舌ふたつ出会ひし桃の正午なり

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