第7回詩歌トライアスロン三詩型融合受賞連載1回/生きものたち   草野理恵子

【第7回詩歌トライアスロン三詩型融合受賞】連載1回
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生きものたち   草野理恵子

(紫陽花/毛の多い生きもの・毛の少ない生きもの)

毛の多い生きものと
一緒に住み始め
小さな土地に
種を植えた
工場に行く前と後
必ず水をやる

この世界には
一本の大きな木しかなくて
さびしいから
硬いパンを水に浸して食べ
毛の多い生きものと種にパンを分ける

毛の多い生きものは種が腐るよと言う
それでも種からは
毛の少ない生きものが生まれた
名前を付けたい

僕が忘れずにいることを伝えたい
例えば紫陽花とか
毛の少ない生きものの名前はまだ決めていない

毛の多い生きものと生き種植える一本の木しかないこの世界

(『ムカデ人間』/カマキリ)

留守中になぜか
大量の顔が届いていた
返却先もわからず
暫く置いておくと
一個また一個と宙に浮き
巨大なカマキリの卵状のものが
部屋に浮くことになった

何か食べると言うので
キャベツの切れ端を与えると
だめだと言う
最初の顔に
鯖の缶詰を奮発すると
それでよいと皆が言う

逆ピラミッドの形に変形して
何か見たいと言うので
『ムカデ人間』をみんなと一緒に観る

顔だけがなぜか配達されてきて『ムカデ人間』一緒に観る夜

(スープ/鳥)

正午
空はまだ濃い灰色で
大きな鳥が覆っている
私は多分
病気の人にスープを届ける
気がつけば鍋を持っている

鳥が羽ばたく度
空が切れ雨が降る
足元にはびっしりと
卵が埋まっているから
歩きにくい
美しい角を持った人が横切る
ふと
あの人の首を部屋に飾りたいと思う
後をつきたいのを我慢する

スープはもう冷めてしまっただろう
つい足元の卵を踏んでいた

空覆う大きな鳥が羽ばたく日 角持つ人の後を追いたい

(冬の前/馬・蛙)

馬が蛙の皮を被って
さみしそうにしている
そして
人間みたいに立っている
ギザギザの池のほとり


チェッカーズ好きだった?
別に……
ギザギザって言ったから……

あの人助ける?
助けられないよ
僕たちは蛙も馬も分からないからね
人間みたいなのも

緑の
緑の糸を巻いているね
蛙を巻き取って
冬になるね

馬被る蛙の皮をさみしそう人間みたく立つ池の端

(雪/馬)

白い馬
青黒い平原に一人
迎えの円盤は
空中で生き物のように形を変える

赤い梯子が伸ばされ
馬の側に降り立つ
馬は手紙を書いている
今日が来て
馬に生まれた人はいない
それがなぜかさみしく感じるほど
馬ではなかったと

円盤は手紙を埋める
埋めると生めるが
似ていることに気がついたが
そのまま埋めた
誰に何のために書いたのか知らなかったし
聞かなかった

円盤が動き
冬が来て

白い馬草原の下埋める手紙「馬に生まれた人いない」 雪

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