九足の図書館 斎藤 秀雄

九足の図書館
斎藤 秀雄

この町の外側は      時計蓋     初月や
どこまでも荒野で、    はずせば荒野  荒野に
馬が、来る。さまざまな、 やすみしる   海百合を刎ねて
馬たちが。巨大な馬、   王を刺すⅤに  少女らの駆る
多足馬、微小な馬――   多足馬集る   多足馬も
蟻のように小さな。    日が娶る    律の風
僕は、目腐れの眼で、   目腐れ花の   目腐れの鹿ら
貰いにゆく。馬の荷物を。 破瓜なくて   万年壺を
ときどき馬たちに、荷物が とわに婚姻色の 惑ふ
付いている。石蜜や、   夜空よ     おしろいや
黒水晶など。       黒水晶     黒水晶も
眼から黒血垂らして、   みずうみ深く  水瀉して
奪う。馬に死体を載せて、 冷やされて   水澄んで
送り出す。この町で    羽織りき代代の つくり笑ひの
死んだ者のすべての死体。 王の死体を   水死体
図書館の付いた      陰梃は     紅葉鳥
巨大な九足の馬の     九足の蛇    九足の悪婆らを
腹にドアがあり、     泳がしむ    剥き
入館できる。透明階段が  みずかねなせる 穴惑痴れず
入り組んでいる。数多の  その隻眼に   反聖地の
妖婦らが、すれちがう、  妖婦とも    妖婦
硝子の階段で。死体を   硝子とも見ゆ  硝子紙
読むことができる。    かわたれの   散り敷く門の
送り出したはずの死体を。 噴水に立つ   無月かな
読み終えると、死体は   一弦琴は    死児の背の
翅のある微小な馬になる。 窓に翅     翅を降らすも
そのへんをひとめぐりして 貼りつく雨夜  えやみぐさ
僕の目腐れに吻を延ばして 口吻を     吻巻いて
黒血を吸う。腹いっぱいに やすりに磨く  比丘ら醸せる
なると、落ちて、砕ける。 死児ども那由他 秋渚
床は金属で天井は硝子だ。 旅人の     鳥食みの
妖婦たちは、もれなく   自慰に耽るも  蘆火当たりも
歌病をわずらっている。  歌病とや    歌病なる
僕は、石蜜など      石蜜ふいに   石蜜を舐め
舐めながら、妖婦たちが  舌を離れず   万象の
老いるのを、眺める。   なかあしに   かすみあみ
瞬間的に老いて、妖婦は、 あまねくあきし 不知火や
床にあいた螺子穴になる。 螺子穴を    螺子穴深き
吸われそうに感じる。   言葉の墓場軌道 西王母
九足の図書館は、     とすらん    いなたまの
いつか荒野へ向かう。   暗暗と     萎びを父が
高い天井の向こうに    天井を刺す   天井画
ラジオ星がみえる。    ラジオ星    ラジオ星
奇禍の兆しだと、     精虫あまた   霧の座葬を
感じる。         産道に死ぬ   とこしなへ

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