「自由詩 草図鑑」他 未補

「自由詩 草図鑑」他

未補

短歌

九月、足のつかない天国を、ただ椋鳥の真白が吹き寄せ、

舵をとらない、愛されたがらない、ネモフィラの、悲を、誰が踏むのか、

ミモレットダンス さいわいにふれるあなたの忌日が欲しい、

さて、シュプレヒコールを、拒む、のは、造花かマネキンの寝息か、

不眠症の、横顔が、積もる、小箱のなかの、室内楽の、よう、に

絵葉書は、品切れだった、(仮定よりf=おもてのないコイン)

港から、あなたの、声変わり、が来る、腕のある、ゆうれいに、なってあげる、

齟齬と虫。あるき、ながら、踊る、清潔だけが、とりえの、アスファルトフロア、

不誠実な、升目のなかで、くちづけと、アクセルを、言い換えて、みて、ごらん、

抽斗の、花ことば、かさばる、朝に、不馴れでいい、よ、玄関で、して、


俳句

紙は輪を奏で風葬日和かな

死に顔を照らすや蝶の飴細工

鏑矢の黙きこしめす砂の海

花時計発つ海鳥のまばゆさに

鏡光や件の跳ねる炭酸紙

楽隊の羽虫 光年の裏を打つ

蓮飢えて手札はすべて白札に

寒卵ころがる絵のなかの画廊

海雪の響きを偽書に綴るかな

エデン、と鳴く回廊の太陽虫


自由詩

草図鑑

名前の分からない
食べられる草を茹でた
茹でたあとのお湯は
みどりとあおときいろを
いちどにみたときの色をしていた
食べられる草と
食べられない草の違いは
きちんと眠れるか
きちんと起きられるか
の違いなのだと祖父が言っていた
(それからかさぶたを剥がすと眠れなくなるとも)
茹でたての音を嗅いで
人々が集まってきた
誰もが名前には無関心なくせに
かたちにはこだわりがあるようで
おのおのがうつくしい石を持ち寄った
(あるいはおのおのがうつくしい石だった)
音楽は要るかと問うと
だいたいのわたしたちは音楽だと
人々はまなざしだけで波うってみせた
茹でたあとのお湯まで飲み干してしまうと
日の当たる場所をさけて
おやすみのうたをうたって
おのおの川へ帰っていった
ああ食べ損ねたと思ったけれど
思っただけでじっさいには
おなかはいっぱいだった
わたしはうまれたときから
いちども言葉のただしさを知らなくて
食べ損ねたのではなく
ほんとうは愛し損ねたのだと
ずっとあとになって
(きょう食べた草が図鑑にのる頃になって)
ようやく気づいたのだった

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