mama教えて  小島きみ子


mama教えて  小島きみ子

 mamaベランダに投げ出されたプランターの土のなかで僕の「眼」は育っていったよ。僕は、mamaが去年の秋、土に埋めた花の球根だったのだからね。mamaは僕を土に埋めたことも忘れていたね。それでも僕は、mamaをずっと見守っていたよ。mamaは、モンスターと暮らすようになってしまったのだからね。mamaの瞼が紫色に脹れていたり、髪を梳かさずに会社に出かけたり、ヒールの踵が剥げていたり、ああmama僕はどんなに苦しかっただろう。でも、僕はくじけなかったよ。僕が暮らしたプランターには、僕と同じ眼を持った子どもたちがいたからさ。いつか、mamaを助けに行く。そのことが僕たちの願いだったからね。 
 
 
 mamaとうとうそのときが来た。僕らは土の中から眼を出した。どんな眼かって? ルドンの画を思い出してみてくれないか。奴は、僕らをキノコだと思っていたらしいよ。僕たちは地上に出てみると四人いた。僕らは、青銅の剣を携えた精霊の騎士だったのさ。光が射した瞬間に、奴を一突きで仕留めた。それでお終いさ。あとは、mamaを僕らの邦に連れて行くだけだった。僕らの背中には頑丈な羽根が生えていたしね。光のなかをmamaと僕らが、凱旋する姿を見なかったかい? 
 
 
 mama覚えている? 小学校のプールには青いビニールシートが被せられていた。まるでそこに死体でもあるかのように。けれどもあるのは、ただ、舞い落ちた枯れ葉だけだった。ふふっ、てmamaは笑う。mamaは僕を怖がらせるのが好きだからさ。でも僕は怖くなんかなかった。mamaもう僕とは遊んでくれないの? ここは気持ちが悪くてもう嫌だよ。 
 
 
 mamaどうして僕はこんな高い木の上に寝かさられているの? 僕は(sacrifice)なの? それだから、僕がmamaを守るためにこうして差し出されたのかい? いいよ、僕は何だってするよ。mamaお願いだからちゃんと教えて!僕はいったいどんなタブーを犯したと言うの?

作者紹介

  • 小島きみ子

長野県生まれ

所属:日本現代詩人会・中日詩人会・長野県詩人協会

詩誌Eumenides・編集・発行人

詩集「Dying Summer」(エウメニデス社)・「((天使の羽はこぼれてくる))」(エウメニデス社) ・「その人の唇を襲った火は」(洪水企画)

詩論集「思考のパサージュ」(エウメニデス社) ・「人への愛のあるところに」(洪水企画)

エッセイ集「Essay・光の帯」(エウメニデス社)

賞:2001年長野県詩人賞・第四十二回中日詩人会新人賞・第十九回山室静・佐久文化賞

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