秋のおわり
蛇は
透明な迷宮をのこして
去った
あれちのぎくの冠に
こじゅけいの雷鳴が走る
薮のなか
ぼくは年上の少女と
秘密基地づくりに熱中していた
すすきの穂先から飛びだして
傷を負ってすこし凹んだ
てんとう虫が手編みのスウェターにとまる
やまごぼうの熟した葡萄を空き瓶にしきつめて
ワインをつくろうとしていた彼女は
手を休めずに ふと
ぼくにささめいたのだった
ねえ ねえ
耳のうしろ側って
見たことある?
毎日 毎日
自分の顔を鏡に映しだし
髭を剃り
歯をみがき
たんねんに鼻毛を抜き
髪をシャンプーしても
ぼくは耳のうしろを
いまだに
見ることがない
長くもなく短くもない生涯で
それが意識にのぼることさえ貴重だと思う
耳のうしろって
あらかじめ
うしなわれた場所だろう
ちいさな記憶の月の裏側
光のうしろの透き間で
淡く陰ったそこは
毎夜 人知れず
うしなわれた心の形を
描きつづけるにちがいない
あの
ちいさなポケットみたいな
原っぱの平安
なつかしい
やぶからし
やぶからし 石田瑞穂
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