死霊(しれい) 小川 三郎

死霊しれい 小川三郎

岩に花が咲く真夏
空気の中に
死霊がいた。
ひとのいないところはすべて死霊で
匂わぬ声を発していた。
ことばは聞きとれなかったけれど
私は知らず知らずのうちに
頷いたり
首を横に振ったりしていた。
岩は焼けるほど熱く
花は血のように濃く
熱い息を吐いていた。
それに吹かれて死霊は踊った。
私もつられて
踊り続けた。
地平は白く
あからさまで
夏でなければ
意味をなさない
どこにも届かぬ声があった。
しんと静まる午後の直中
蝉も瞑って
花だけが揺れ
突然あふれた意識のなかで
私の音が聞こえない。
あらゆる鼓動は陽炎となり
死霊の姿は舞い上がった。
数億、数兆
空高くの雲までが死霊
夏は熱され
もの思うものは消え
私が何に触れようとも
ただ花だけが岩に咲いて
聞こえないふりを続けていた。

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