自画像 伊武トーマ

自由詩・伊武130322-1自由詩・伊武130322-2

自画像 伊武トーマ

 私は見えない檻のなかにいる
 
 二十四時間冷暖房完備
 捨てるほど食べ物があふれ返る檻のなか
 私は鏡の前に立っている
 
 意味という意味を喰いちぎり
 檻から解き放たれた怪物が
 鏡の向こう私をみつめている
 
 私が顔を背ければ怪物も顔を背ける
 
 嘲笑うかのように
 私の動作を模倣する怪物は
 噛みつく隙を狙っている
 
 隙あらば鏡を打ち砕き
 呪われた意味に満ちた最後の砦
 私の首を喰いちぎろうと…
 
 見えない檻のなかにいて
 私は鏡に背を向ける
 
 満月でもないのに
 狼の遠吠えが耳元をかすめ
 怪物の影が背後から忍び寄る
 
 檻の前
 迫り来る怪物は立ち止まり
 息を殺して低くささやく
 
「愛する子よ
 おまえがそれほど怯えるなら
 その手で鏡を割るがいい…」
 
 背を向けたまま私は
 怪物に答える
 
「私は信仰を持っていない
 たとえあなたが神のひとり子だとしても
 私にとってあなたは怪物…」
 
 重い十字架をひきずり
 足音なく怪物は去り
 
 鏡は割れ
 檻は消え
 
 父よ
 裸の私はあなたの影を追う

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