天井譚 森川雅美
人には誇りがあって、
それが大切だと、
誰かはかたった、
遠い昔のことだった、
のかもしれない、
灯がかすかにともり、
雲もなく晴れた、
空だったとおぼろに、
思い出された声
が背後から聞こえた、
ひどく疲れたまま、
自分を発見する、
午後というのもあり、
ここに消えた人の、
流れている陽射しを、
誰にも気づかれずに、
重なっていく足首、
から解きほぐし、
長くなる右の中指は、
根元がにぶく痛み、
すぐ静かになった、
小さなひと肌を、
背中から注がれ、
きっと忘れられる、
うなじの輝きは、
いつも追われて、
恐怖に囚われない、
ようににぶい肌
をひとりで育てる、
ためにきっと触れ、
ほぐれる部位は、
片側であったろう、
正面の面差しに、
置き去りにされた、
中途半端に留まり、
生成がこれ以上、
問われることもなく、
また躓きますからと、
声もなくつぶやき、
停止する口元のため、
ぶらさがる心音が、
またたき流れていき、
来迎であったろう、
ゆえにまばゆく眩む、
傷が開きさらされ、
留まる名前を支え、
崩れるまでの瞬時を、
待つとはなしに、
くり返し記憶して、