感電 森山恵

自由詩森山130516
自由詩森山130516-2

感電 森山恵

わたくしは死にました
 
配電盤に飛びこんだのは
わたくしです
「ネズミとみられる小動物」呼ばれ
黒い焦げ跡をのこした生きもの
(小動物の発散するつよい匂いがただよっていた)
それがわたくしです
ご覧になりましたか
焦げた小動物の
あの細いしっぽのかたちを
 
見てください
野ざらしの配電盤を
わたくしたちの危うい世界を
見てください
春の青空と緑の木々
咲きこぼれるとりどりの花
(四月十六日の朝、医師ベルナール・リウーは、診察室からでかけ
ようとして、階段口のまんなかで一匹の死んだネズミにつまずいた)
どうかわたくしを忘れないでください
 
身を捧げたのです
 
わたくしは身を捧げたのです
仮設配電盤へと身をなげ
(あちこちでケモノのさわぐ物音が聞こえた)
冷却装置を止めたのです
小さき者にできることはそれだけです
 
ご覧になりましたか
白い 真っ白い壁面の
黒い焦げ跡を
くっきりと残った黒い小動物のかたち
焼け焦げて飛び散った体毛を
 
春は感電したのです
 
わたくしは死にました
弱き小動物であるわたくしは(「死んでしまった」リウー先生はいっ
た)死にました
明け方するどい悲鳴を響かせて
(白い歯を見せ、足をちぢめてころがっていた)
危険な賭けです
 
わたくしは死にました
けれども繁殖します
増殖します
増え続けます
わたくしのあとに続くでしょう
次の「ネズミとみられる小動物」が
そしてその次にも その次にも
(十匹ものネズミが散乱していた)続くのです
(無数のネズミが先を争って飛びこんでいた)
無数のネズミが電源盤に飛びこむでしょう
(数は増加する一方だ)
 
(明け方の薄暗い潅木林や草むらや葦の茂み)
今日もするどい悲鳴が響きます
(いたるところからネズミは地下水がわくように走りだして
つぎからつぎへと飛びこんでいった)
(出てくるわ、出てくるわ)
 
感電、感電した春
あなたの玄関にも焦げ跡があるのです
 
わたくしは死んでいません
死んでいないのです
なぜならあとに続く小さき者がいるからです
(暗く巨大で、狂的なエネルギー)
わたくしは わたくしたちはこの身を捧げるのです
 
 
              (開高健『パニック』)
              (カミュ『ペスト』)より

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