穂ばな 河邉由紀恵

【8月30日掲載】 自由詩 穂ばな

穂ばな 河邉由紀恵

とおくはなれた野までずうっと歩いて来てか
のこ草の枯れた穂ばなをつんでいます小さな
蝶をそだてるために摘むというのですが本当
はだれのためなんのためなのかわかりません
 
草原のところどころに咲くかのこ草を摘んで
ちぎって半透明の袋のなかへ入れるだけです
が七十五ほんも枯れた穂ばなをかさねると左
手にさげた袋がふわりぶわりとふくらみます
 
ほらそこに足もとに葛の葉がからんでいるし
いばらのとげもあるまむしにかまれるかもし
れないかるかやの葉がもたれあいうすくてい
たい声がしていますささらあささらあともう
 
おばあさんになってしまった母の声がして私
の袋は重くなるのです小さな蝶をそだてるた
め枯れた穂ばなを摘んで入れるたびにささら
あささらあの声がして袋はおもくなるのです
 
枯れた穂ばなたちが袋のなかで蒸れて濡れて
くるしそうに左がわの部屋から出してくださ
いと言っています底にはじんわりとなみだが
たまっていたのでわたしは袋を落としました
 
もうこれ以上枯れた穂ばなを摘めませんしも
てませんわたしは母がはいった袋をかるかや
がしげるひろい海のような荒野においてきま
したそれから蝶のことは忘れてしまいました
 

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